[スペシャル対談]産業医 尾林誉史先生 x ブライト代表取締役 三好玲

談笑する三好と尾林先生


産業医紹介ネットに所属する産業医の尾林誉史先生に、弊社代表の三好がインタビュー。

大手企業を退職し、高い志を持って医療の道を志した尾林先生 。医者を目指したのは、産業医として社会を良くしたい、もっと産業医の質を向上させたいと強く感じた経験があったからだと言います。現在は、東京の複数の企業で産業医として活躍中。産業医に対する想い、これからの産業医がどうあるべきかについても語ってくれました。

産業医紹介ネットに所属する産業医の尾林誉史先生

尾林誉史

2006年、会社員時代に産業医を志し、2007年、弘前大学医学部3年次学士編入。

2011~13年、産業医の土台として精神科の技術を身に付けるため、東京都立松沢病院にて臨床初期研修を行う。

2013年、精神科の後期研修を岡崎祐士先生(前・東京都立松沢病院院長)のもとで行うべく、長崎市にある医療法人厚生会道ノ尾病院に赴任。同時期に、東京大学医学部附属病院精神神経科にも入局。

現在は、主に東京に本社のある多数の企業で産業医を務める。

https://sangyouishoukai.net

~産業医革命を日本中に~

営業から産業医への転身

三好:
尾林先生 は、リクルートから産業医に転身されています。ユニークなご経歴をお持ちですが、まずリクルートではどんなことをされていたのかを教えてください。

尾林:
2001年に入社をして、新規事業に関する営業をしていました。当時、リクルートでは新しいポータルサイトをつくっていて、うまくいけば今のYahoo!のようになっていたはずなのですが(笑)。そのサイトに掲載するコンテンツの営業を担当していました。

三好:
営業を担当されていたのですね。そこからなぜ、産業医に転換されたのでしょうか?

尾林:
営業はパッとしなかったんですよ(笑)。アポを取る率はリクルートでも屈指だったと思うのですが、クロージングに抵抗がありまして。本当にお客さんのためになるのかと考えてしまうところがあり、なかなか数字につながらなくて悶々としていたんです。

今振り返ると、そういう自分の状況と時代背景がマッチしたのだと思います。当時2000年くらいだと思うのですが、その頃からうつ病がキーワードとして出てきたんです。ちょっと元気をなくしていると「あいつメンタルなんじゃない?」とか「心の風邪」とか言われ始めた頃です。

自分の周りの先輩や後輩も心の病で倒れていったんです。これはリクルートに限らず、他社さんでもです。そういうメンタルで人が崩れていく状況を目の当たりにして、ちょうどキャリアについて考えていたのもあって。なんていうんですかね、ピンと来たんです。

三好:
ピンと来られた。

尾林:
それまで自分の特技とか長所とかを意識したことはあまりなかったのですが、営業をやっていても人の話を聞く能力が高いみたいだな、人から相談を受けやすいな、と。何かこう“話を聞いてあげるよオーラ”が出ているのかもしれないと思った時に、それが強みかもしれないと。

三好:
なるほど。たしかにお話を聞いてほしくなります(笑)。

尾林:
その時に初めて産業医という仕事に遭遇しました。産業医は、メンタルで困っている方の話を聞く仕事です。ただ診断も出来ませんし、基本的に処方も出来ません。できるのは復職の判断くらいなんです。

でも社会人にとって、鬱病で仕事ができなくなるのは人生そのものを左右する大きな出来事ですよね。そこで人生に寄り添ってくれる人が必要だと思いましたし、だからこそ医者よりも産業医になりたいと思ったんです。

最初は臨床心理士とか、人事で組織マネジメントに関わるとかそういう切り口でメンタル問題にアプローチすることも考えましたが、組織よりも1対1でやりとりをするのが好きですし得意でしたので産業医にしました。

三好と尾林先生の対談風景

産業医を巡る問題ー企業も医者もやる気がない

三好:
当時、産業医について問題意識をお持ちだったとお伺いしています。どのような問題意識だったのでしょうか?

尾林:
今もそうなのですが、産業医は医者の資格があれば誰でも産業医と名乗れるんです。その敷居の低さには驚きました。アルバイトでやっていたり、名義貸しをしていたり。そういうことが平気で行われているんです。

鬱の方にどうやって寄り添うかというところが一番大事なのですが、そういうベースが大切にされていない。「鬱病ですね、どうしますか?休みますか?」みたいな診断書を出すだけの仕事になっている面がありました。誰でもできるような仕事になっていたわけです。

本来であれば誰にでもできる仕事ではないと言いますか、専門性というか、高い当事者意識が求められる仕事なのに現状では誰にでもできるようなものになっている。このギャップを何とかしたいと思っていました。

三好:
なぜバイト感覚の方の診療や、名義貸しが行われているのでしょうか?

尾林:
50名以上の従業員がいる会社には産業医を置かなければならないという法律があります。そのため、とりあえず産業医を置いておこうということになるのだと思います。
 
産業医を受け入れる企業側も、引き受ける医者の側も、どちらもやる気がないんですよ。

三好:
社員からするとたまったもんじゃないですね。

尾林:
とんでもない機会損失だと思います。良い産業医がいれば、鬱の方の仕事人生だけでなく、その会社の成長にも好影響を与えられます。そういう現状を変えようと思って今、頑張っています。

従業員をデジタルにとらえない。共感してくれる経営者と働く

三好:
具体的にはどのようなアプローチを取られているのか教えてください。

尾林:
実はリクルートにいたことがとても良かったんです。リクルートのOB・OGがどんどん独立して会社を興して社長になっていくんです。その人たちに「産業医を置かないといけないじゃない?」とコンタクトをとって、メンタルヘルスや産業医に対する想いを聞いてもらっています。
 
その中で、従業員の健康が会社の成長に結びつくということが腑に落ちている経営者、自分の想いに共感してくださる方とタッグを組むようにしています。

三好:
尾林先生の方も選ぶ立場にあられるということですね。具体的にはどのようなお話を経営者の方にされるのですか?

尾林:
いくつか大事にしていることがあるのですが、まずは鬱病の方の人生に寄り添いたいという話をさせていただいています。とにかく早く治して復職を目指す、というわけではありません。
 
鬱病にかかる方は、考える力も落ちてしまっています。そういう時に「復職を目指してがんばりましょう」と言っても辛いんですね。まずは、自分の生き方とかキャリアを考えられるように心の推移を戻しましょうね、という話をします。それでキャリアを考えられるくらい回復した時に、元の会社に戻らない方がいいと判断をしたら別の道に進む可能性も提示させていただきます。

三好:
復職させようとするのではなく、別の道も提示する産業医の方は珍しいのではないですか?

尾林:
そうですね、あまりいないと思います。

三好:
経営者もそれでいい。

尾林:
もちろん貴重な人材なので好きにしてくださいとはおっしゃらない。でも、自社に引き止めることがその方にとって良くないなら、引き止めてはいけないよね、と理解してくださいます。

経営者も、従業員をデジタルに一人二人と捉えているのではなくてアナログに捉えていらっしゃるんです。「こいつは仕事がめちゃくちゃできるけど、要領悪いところもあるし、実は涙もろいところもある」とか中身まできちんと見ている。

それぞれのことをちゃんと見ているので、引き止めるか引き止めないかだけを判断軸にすることに意味がないとわかってらっしゃるといいますか。その人の人生にとってプラスかマイナスかも考えてくださるんです。

向かいあう三好と尾林先生

メンタル不調の方が増える原因とは

三好:
メンタル不調の方が社会全体で見たときも増えているのではないかと感じます。その原因は何でしょうか?

尾林:
原因としてよく言われるし、実際そうだと思うのは長時間労働です。特に代理店や制作会社など、相手都合で動かなければならない仕事は、自分でタイムマネジメントがしにくいのでメンタルを崩しやすいように思います。
 
それから、意外かもしれませんが、鬱の方のお話を聞いていてよく感じるのが「仕事を楽しめていない」ということです。
 
企業の中で働くので全員が全員、自分のやりたいことをやれるわけではないのは当たり前です。とはいえ、”やらされ感”が満載と言いますか、、、、、、。会社の要望と本人のやりたいことが全く重ならないと厳しいですね。
 
人間関係などの環境要因もあります。産業医面談をしていて、ほめてもらえる機会が全然なかったという方に時々お会いします。仕事の評価を全くしてもらえないと、自分が役に立っているのかどうかがわからなくなるんですよね。もしも給料が右肩上がりで上がり続けるとかがあれば(笑)、直接的に声をかけられなくても、安心感を得られて人は崩れないのかもしれないのですが、今の時代にそれは難しいですよね。
 
潤滑油や信頼関係が全くない環境下で仕事を続けていると、自己尊重や自己肯定感が摩耗してしまいます。その結果メンタルが崩れるということがあります。
 
なので、メンタル不調の原因としては大きく3つ、長時間労働、本人と会社の指向性のギャップ、環境要因があると考えています。

三好:
働き方改革の話で「衛生要因(会社の方針、労働環境)」と「動機付け要因(モチベーションにつながること)」の2つが大事だという話があるのですが、今の3つはここにも当てはまりますね。

「働きがい」には「動機付け要因」と「衛生要因」が含まれる。 「動機付け要因」は、あればあるほどやる気やモチベーションに繋がる。仕事の達成感、責任範囲の拡大、能力工場や自己成長、チャレンジングな仕事。 「衛生要因」は整っていないと不満に繋がるもの。会社の方針、管理方法、労働環境、作業条件(給与・時間・役割) 働き方改革は「衛生要因」に該当。 フレデリック・ハーズバーグ:二要因論
「働き方改革」と「働きがい」 出典:日本の人事部

尾林:
この図は私の考えを図式化してくれたような感じがします。最近、ティール組織が話題ですよね。
 
ティール組織は、トップダウンで組織の理念を追求させられるのではなくて、組織の構成員の一人一人が組織の一翼を担えていると思えるように動いていく。そのほうが結果として強い組織になるということですよね。わたしもこれからの時代はそういう組織が残ると思います。
 
これからは従業員一人一人が会社を使う感覚で働いていった方がいいのではないでしょうか。私も産業医面談の中でもっと自由に働いてもいいんですよというメッセージは出しています。
 
私が産業医として「こうしなさい」と答えを出すことはまずなくてですね、「どうしたらもっと仕事のプロセスを楽しめると思う?」、「働きやすいというのはどういうことだと思う?」と考えてもらっています。個人として、受け身ではなく能動的に会社を使うですとか、楽しめるようにするという意識も必要ですよね。

三好:
なるほど。社員個人にはもっと能動的な姿勢で働くことを促されている、と。マネジメントラインの方には、どのような働きかけをされていますか?

尾林:
セミナーなどを開かせていただき、「褒めてください」、「評価してください」、「挨拶してください」という話をしています。それに加えて、社員の方に全体像を見せてくださいとお話しています。マネジメントラインにいれば、方向性がわかるかもしれませんが、社員の方はわからないかもしれない。全体像がわからない中で仕事が降ってくるとやらされ感からやることになってしまいます。
 
できれば、壮大な絵があって、その中であなたはこれが得意だからこの仕事を任せたいという風に仕事を依頼してもらえると最高ですね。ただ上意下達でやるのとモチベーションは全然変わってくると思いますよ。

三好:
上からと下からと2つのアプローチをされているんですね。

尾林:
そうですね。社員一人一人には個々の最適解も考えてもらいますし、マネジメントラインには全体像も伝えてもらうようにお願いしています。

三好:
先生のような産業医の方がいらっしゃったら、会社全体が良い方向に循環していきそうですね。

法令順守のための産業医なんてダサいという風潮をつくりたい

三好:
今後の展望について教えてください。

尾林:
より質の高い産業医を増やしていきたいですよね。
 
現場で戦う産業医としては、とても柔らかくてナイーブなことを扱っていると思うのですが、ナイーブだからって悲壮になることはなくて、とてもエキサイティングで大切なことをやっていると思います。今産業医をされている方には、そこまで考えてやりましょうと伝えていきたいですし、医学部の知り合いには、産業医になって一緒にやっていかないかと声をかけています。
 
10人くらいは、これまで産業医の“さ”の字も頭になかったけど、声をかけたことで考えるようになったという人や、将来産業医を余力が出てきたら、相談にのってよなどと言ってもらえるようになりました。
 
僕が思うような産業医に共感してくれるよう炊きつけています(笑)

三好:
産業医紹介ネットでは、そういう志のある産業医の方を企業に紹介したいと考えています。

尾林:
それはすごく共感をします。私の力だけではできないので。

従来の産業医の紹介をされているところは、法令のための数合わせを目的に派遣しているところもあります。

でも、実はそれでいいと思っていない経営者の方もたくさんいますし、産業医にここまで相談していいとわかれば、やりたいという方もいるはずだと思っています。

談笑する三好と尾林先生

産業医紹介ネットでは、産業医と専属コンサルタントが連携し、働きやすさだけではなく、働きがいのある職場を創りだすことに注力しています。

働きがいのある会社にしていくことは、産業医一人では大変難しく、フォローできる範囲が限られてきます。私たちは働きがいのある会社に変革できるよう、様々な業界・業種でのコンサルティング実績があります。

産業医と専属コンサルタントが連携しサポートさせて頂くことで、安全衛生の観点のみならず、従業員満足にも継続的に働きかけていくことが可能です。

是非ご気軽にご相談ください。

産業医紹介ネット
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